仙台地方裁判所 昭和61年(行ウ)5号 判決 1988年3月10日
原告
宮城商事株式会社
右代表者代表取締役
菅井利良
右訴訟代理人弁護士
渡辺健寿
被告
仙台中税務署長
高屋晴三
右指定代理人
佐藤孝明
外四名
主文
原告の請求のいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 申立
原告は、「被告が原告に対して昭和五九年八月二七日付でした、原告の昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における法人税についての更正処分のうち、差引所得に対する法人税額金二億二四三九万四六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
被告は主文同旨の判決を求めた。
第二 主張
一 請求原因
1 原告は損害保険の代理業を主たる営業とし、他に不動産賃貸業も営む株式会社である。
2 原告は、昭和五七年五月二八日、被告に対し、原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、所得金額、土地譲渡利益金額及び納付すべき税額を別表1確定申告欄記載のとおり(土地譲渡利益金額のみに対する税額は一九四〇万六二〇〇円)とする確定申告をした。
3 これに対し被告は、昭和五九年八月二七日、右金額を別表1更正及び加算税の賦課決定欄記載のとおり(土地譲渡利益金額のみに対する税額は三〇三五万六八〇〇円)とする更正処分及び過少申告加算税五四万七五〇〇円の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。
4 原告はこれに対し、被告の右各処分を不服として、昭和五九年一〇月六日、所轄庁に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六一年三月三一日別表2記載のとおり原告の土地譲渡利益金額は一億八〇三五万四〇〇〇円、これに対する税額は三六〇七万〇八〇〇円であると判断して、右範囲内で更正処分等をした原処分は適法であるとし、審査請求を棄却する旨の裁決をした。
5 しかしながら本件更正処分等は違法である。
6 よって、原告は請求の趣旨記載の判決を求める。
二 答弁
請求原因1ないし4の事実は全部認める。
三 被告の主張
1 原告の本件事業年度における土地譲渡利益金額は、別表2裁決欄記載の金額(これに一部違算があったので)よりもやゝ多い一億八〇五九万二〇〇〇円(以下これを「被告主張利益金額」という)である。
(一) 原告は、昭和五六年四月二日、仙台市本町二丁目一六番三の土地1062.84平方メートル(以下「本件土地」という。)を双葉総合開発株式会社(以下「双葉総合開発」という。)に九億三八五一万二七五四円で売渡した。右土地の売却をした場合の原告に対する法人税については、租税特別措置法(以下単に「措置法」という。)六三条(土地の譲渡等がある場合の特別税率)の適用があるところ、原告は、右土地譲渡利益金額の算定にあたり、土地の譲渡による収益から控除すべき保有期間中の負債の利子の額(以下単に「負債の利子の額」という。)は、本件土地を取得するため訴外株式会社七十七銀行(以下「七十七銀行」という。)から借入れた四億三〇〇〇万円(以下「本件借入金」という。)に対する支払利子の全額二億七〇四八万〇五九四円(以下「本件利子」という。)であるとして、同法施行令(以下単に「施行令」という。)三八条の四第八項(いわゆる実額配賦法を定めた規定)を選択してしたとの計算をなし、別表2記載のとおり、本件土地にかかる土地譲渡利益金額を九七〇三万一〇〇〇円、これに対する税額を一九四〇万六二〇〇円であると主張している。
(二) しかし、原告が依拠した計算法は実額配賦法として認められないものである。すなわち、本件借入金の効果は、原告の全資産に平均的に対応し、本件土地の取得と本件借入金とは個別対応の関係がなく、本件利子も原告の全財産に平均的に対応しているのであるから、原告が主張す負債の利子の額の計算方法は、施行令三八条の四第八項で規定する合理的な計算方法とは認められない。右負債の利子の額は、法人の総資産の価額を基礎として支払利子の額を按分する総資産按分法(措置法関係通達(法人税編)六三(四)―一七)により計算すべきであり、これによって計算すると別表2裁決欄記載の金額に近い金額、すなわち本件土地譲渡利益金額は一億八〇五九万二〇〇〇円、これに対する税額は三六一一万八四〇〇円となり、右範囲内でされた本件更正処分等は適法である。以下詳述する。
2(一) 土地譲渡利益金額の計算方法
措置法六三条一項に規定する土地譲渡利益金額とは、土地の譲渡等による「収益の額」からその収益にかかる「原価の額」及び土地の譲渡等のために「直接又は間接に要した経費の額」として政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額をいい(同条二項)、「直接又は間接に要した経費の額」とは、「負債の利子の額」と「販売費及び一般管理費の額」の合計額をいう(施行令三八条の四第六項)。
(二) 負債利子額の計算方法
(1) 譲渡土地のために要した負債の利子の額は、法人の所得計算上、一般に期間費用として過去の支出年度において、損金の額に支払利子として算入されているのであるから、土地譲渡利益金額を計算するためには、借入金の支払利子のうち、譲渡した土地にかかる負債の利子の額を保有期間(取得時から譲渡時まで)の全期間にわたって集計し、これを譲渡にかかる土地に適切に配賦する必要がある。
しかし、借入金の支払利子は、法人の事業活動以外の原因である法人の財務・組織活動から毎期経常的に生ずる法人全体の共通の営業外費用であって、事業遂行上必要かつ原価性の色彩の濃い営業費用(販売費・一般管理費)と異なることから、財務会計では土地の買入資金としての借入金に対する支払利子は個別の土地との対応関係を把握できるような形では計算されていないため、新たに負債の利子の額を個別の土地譲渡に配賦することになるが、その作業は極めて困難かつ煩瑣なものとならざるを得ない。
(2) そこで、負債の利子の額の計算については、施行令三八条の四第六項の規定によって、原則として、法定の概算値によって簡便に計算するものとされ、別表3のような概算計算方式(以下「概算法」という。)が定められている。
いわゆるこの概算法は、法人が実際に支払った支払利子の額を考慮することなく、譲渡土地の保有期間中の帳簿価格の累計額に一〇〇分の六を乗じた金額により負債の利子の額を計算する簡便な計算方法である。
(3) 一方、施行令は概算法の例外として、特に法人が当該土地の譲渡にかかる「負債の利子の額」を合理的に計算して法人税確定申告書に記載した場合には、右計算による金額によることができるものと規定(同令三八条の四第八項)し、法人に概算法と合理的な計算方法(実額配賦法)とのいずれかの選択を認めている。
3 実額配賦法による場合の「負債の利子の額」の計算方法
(一) 法人における借入金の資金効果
法人にあっては、自己資金と他人資金がともに事業経営に必要な資金として渾然一体となって運用され、法人の資金繰りは法人全体の資金需要に対応して行われているのが実情である。即ち、他人資金の借入は、法人の自己資金の不足を補い、あるいは自己資金そのものに余裕を与える等その資金的効果は法人の事業経営全体に平均的に寄与するものといえるのである。
このことは特定の土地を取得するという目的、動機で他人資金を借入れた場合でも同様である。けだし、事業経営の他分野に自己資金を投下したことにより当該土地の取得資金が不足した結果として借入をした場合や、当該土地を取得するための借入をすることによって、他分野への自己資金投下に余裕を持たせる場合等を考えれば、借入の目的、動機が特定されたものであるとしても、その資金的効果そのものは法人の事業経営全体に平均的に寄与することになるといいうるからである。
また、法人がその取得にかかる土地を一時的、又は継続的に利用して収益を発生させた場合には、右収益は事業経営資金の一部として法人の資金繰りに余裕を与えることになるが、これも借入金の資金効果が間接的に法人の事業経営全体に平均的に寄与することを示している。
右借入金の返済の面からみても、借入金の返済資金は返済計画に従って法人のその他の自己資金、他人資金が充てられることになるのであるから、借入金の返済もまた法人全体の資金内容に左右されることになる。仮に、借入金の返済を当該土地の転売代金をもって充てることにしている場合であっても、そのことによって、当該土地の保有期間中、右借入金以外の借入金の返済が可能となる資金的余裕が生じ、あるいは自己資金の留保が可能になる等法人全体の資金内容に影響を与えることになる。
要するに、借入の目的、動機や借入金の返済方法いかんにかかわらず、借入金の効果は法人のすべての資産に平均的に対応することになるのである。
(二) 実額配賦法による計算方法
法人における借入金の資金的効果が、借入の目的、動機にかかわらず全資産に平均的に寄与するという右の考え方からすれば、負債の利子の額を合理的に計算するためには、土地にかかる負債の利子の額を土地取得から譲渡までの全期間にわたって集計し、譲渡した土地に適切に配分しなければならない。
しかし、実際に計算を行うとすれば、別表4の計算を日々行い、譲渡した土地の取得の日から譲渡の日までの全日数の累計額を当該土地の譲渡等にかかる負債の利子の額として算出しなければならない。しかしながら法人の総負債額及び総資産の帳簿価額は、日々刻々流動的に変化しており、これを明らかにする作業は極めて困難かつ煩瑣である。
そこで、右の日々計算に代わりうる合理的計算方法は、法人の総資産の価額を基礎として、支払利子の額を按分する別表5の「総資産按分法」である。この計算方法は、前記の日々行うべき計算を各事業年度末の計算をもって代える計算方法であり、困難かつ煩瑣な負債利子額の日々計算を右限度で簡便化したもので、本来の計算方法に代置し、かつ合理性を担保し得る計算方法である。
(三) 原告の事業経営の実態を見るに、自己資金と他人資金とが渾然一体となっており、また本件借入金の資金効果が原告の事業経営全体に寄与していること明らかであるから、原告は、実額配賦法を選択するのであれば総資産按分法によるべきである。
(四) いわゆる直接配賦法について
負債の利子の額の計算に当たって、支払利子の全額を土地譲渡による収益から控除するという原告主張の直接配賦法は、実額配賦法には該当しないというべきである。
(1) 「直接配賦法」の理論的不合理性
「直接配賦法」は、借入の目的、動機及び借入金と使途の個別対応を根拠として、支払利子全額を土地譲渡による収益にかかる負債の利子の額とする計算方法であるが、かかる方法がとられれば、前記のとおり借入金の資金効果が法人の事業経営全体に平均的に寄与するものであることが看過あるいは無視される結果となり、また、措置法六三条二項に規定する「直接又は間接に要した経費の額」につき、施行令三八条の四第六項が「これら資産の保有のために要した負債の利子の額」と規定し、土地(又は株式)の「取得に要した負債の利子の額」とは規定していないことを看過した税務処理がなされるわけであり、明らかに失当である。
この保有のための負債の利子という概念は、法人における資金の高度の代替性に徴し、借入金に対する支払利子と個別の土地との対応関係を把握することが困難であるという事情から、土地譲渡利益金額を合理的に計算することを可能とするために措置法施行令三八条の四が新たに作り出した技術的概念である。このような技術的概念であるところの「保有のための負債の利子の額」を計算する方法として、上述の概算法、総資産按分法の二つがあるが、原告の主張する直接配賦法はこの保有のための負債利子を計算する方法には当らないというべきである。
(2) 資金の操作等による租税負担回避の可能性
仮に、直接配賦法を認めるならば、単なる資金操作ないし経理の巧拙によって、土地譲渡利益金額が左右されることになる。
即ち、法人が土地を取得するための借入金と他の借入金を有している場合に、他の借入金を優先して返済する方法をとれば、他の借入金に対する支払利子の負担が減少する一方、土地取得のための借入金に対する支払利子は減少せず、土地譲渡利益金額が軽減されることになる(本来の法人税の課税標準に変化はない。)。また、既存の借入金を有している法人が土地を取得するに際し、自己資金によって既存の借入金を返済し、土地の取得資金を新たな借入金によって賄うといった経理上の資金操作によって、右借入金に支払利子を負担させ、土地譲渡利益金額の軽減を図ることも可能となる。
このように、法人の恣意的な経理の操作により土地譲渡利益金額が左右される結果、租税負担の不公平を招くことになる。
(3) 土地投機の促進
土地譲渡利益金額の計算において直接配賦法を容認するならば、右に見た如く土地取得資金の借入をして土地を買いあさる法人が租税負担の軽減を受けることが可能となり、土地に対する仮需要をあおる結果となって、異常な土地への投機を沈静させ、投機的な需要による地価の高騰を解消することを目的とした法人の土地譲渡益に対する重課制度の趣旨に反する。
4 以上のとおり、法人の資金運用の実態と借入金の資金効果及び土地譲渡益の重課制度の趣旨等から、原告が主張する直接配賦法は、到底、施行令三八条の四第八項で規定する合理的な計算方法には当らないというべきであるから、直接配賦法に依拠する原告の主張は失当である。
四 被告の主張に対する認容
1 被告の主張1の柱書は否認する。
同1の(一)は認める。
同1の(二)は否認する。
2 同2は認める。
3 同3の(一)は争う。法人における借入金の資金効果は常に当該法人の事業経営全体に平均的に寄与するというものではない。
同3の(二)について、総資産按分法が合理的計算方法の一つであることは認める。
同3の(三)について、原告の事業経営の実態については否認しその余は争う。
同3の(四)は争う。
五 被告の主張に対する原告の反論
1 施行令三八条の四第八項の趣旨
土地譲渡にかかる負債の利子が、一般的には個々の譲渡と対応させることが困難なものであるために、原則として法定の概算値によることとされていることは被告の主張するとおりである。しかし、施行令三八条の四第八項は、法人が土地譲渡にかかる負債の利子を合理的に計算し得る場合には、その金額を経費として認める趣旨から採られた規定である。従って、法人の経理の内容、当該土地の取得及び譲渡の実情によって支払利子と個々の譲渡を対応させることができる場合に、当該土地取得のための借入金に対する支払利子の実額を当該土地譲渡による収益にかかる負債の額とする計算方法は何ら否定されていない。
2 被告の主張する負債利子の計算方法は、「財務会計では土地の買入資金としての借入金に対する支払利子は個別の土地との対応関係を把握できるような形では計算されていない」ことを前提としているが、これは誤解であり、後に述べるように借入金の使途が特定し、個別に管理されていれば、保有期間の全期間にわたる支払利子につき、個別の土地との対応関係を明らかにできるのである。だからこそ、施行令三八条の四は第六項で概算法を定めるほかに、第八項で実額配賦法を規定したのである。
実額配賦法による場合の合理的計算方法とは、当該法人の経理の実情、資産負債の状況、当該借入金の内容等によって総合的に判断されるべきである。被告の主張する「総資産按分法」は、推計による計算方法の一方法にすぎず、これ以外の計算方法がすべて不合理とされるものではない。施行令三八条の四第八項には「合理的計算」という規定があるのみで、「総資産按分の方法による」との規定がある訳ではないのである。
3 被告が「直接配賦法」を否定する論拠として挙げる点はいずれも失当である。
(一) 借入金の資金効果は法人の事業経営全体に平均的に寄与するというが、あらゆる法人で常に平均的に寄与するとはいえないし、また、譲渡所得の計算上、具体的個別的対応による直接配賦法を不合理とする理由にはならない。
逆に、被告の理論によれば、個人の不動産所得の計算上も、借入は個人の資産全体に寄与するのであるから、その支払利子を総資産按分法により計算しなければ不統一となるが、実務上そのような方法はとられていない。この点につき、国税不服審判所の本件についての裁決書でも、直接配賦法は「一般的には合理的な方法は認められない。」とし、具体的事情によっては合理的計算方法と認められる余地を残しているのである。
(二) 資金操作による租税回避の可能性
被告の主張する租税回避の可能性は、土地重課制度の運用上の問題である。
法人は、本来借入の返済の順序を選択できるのであるから、会計原則に基づき自己に有利な借入返済を優先することは当然の処理であり、何ら責められる理由はないし、恣意的な経理の操作にはあたらない。これをもって租税負担の不公平を招くとするのは誤りである。
また仮に、被告の主張する総資産按分法によるとしても、法人の期首と期末の資産状態を操作することによって計算上の負債の利子の額を調整することができる。例えば、総資産の少ない法人が高額の土地を取得したとすると総資産に占める当該土地の割合が大きくなるから、他の支払利子額が大きい場合、当該土地取得のための借入にかかる支払利子よりも多額の利子(他の運転資金等の借入にかかる利子を含むことになる。)を当該土地の譲渡にかかる負債の利子として計上できることになり、極めて不合理である。従って、租税回避の可能性は制度の運用上の問題であって、本件の直接配賦法による計算を否定する理由とはならない。
(三) 土地投機の促進
土地投機は、社会情勢、経済情勢の反映であって、負債の利子の計算方法と直接結びつくものではなく、総資産按分法によれば土地投機を抑制できるというもものではない。前述のように、法人の資産状態によってはむしろ総資産按分法による方が認容される負債の利子の額が現実の支払利子額より大きくなり、税負担が軽くなる場合さえありうるのである。
4 そもそも法人個人を問わず資産を購入するための借入金に対する利子の取扱いについては、その借入及び利子支払額が資産取得のために必要相当であったと認められる限り「取得に要した金額」として課税所得から控除することが租税負担の衡平性の上から妥当であり、合理的である。法人の土地譲渡利益に対する重課の場合にも右の考え方がとられるべきであり、支払利子実額を負債利子として計上することが合理的か否かは当該借入金と土地取得との連結性、支払利子額の相当性等の具体的事情から判断されるべきである。
5 本件における原告の負債の利子の額の計算方法は、次に述べるとおりの事情から判断すれば、措置法施行令三八条の四第八項にいう合理的計算方法である。
(一) 原告は七十七銀行の関連会社であり、役員、従業員の全員が同銀行の退職者である。
(二) 本件土地取得及び譲渡の事情
昭和四七年一二月一八日、原告は訴外株式会社三井銀行から本件土地を買受けた。本件土地は、仙台商工会議所会館の隣に所在していたため、当時会館改築の予定をたてていた訴外仙台商工会議所がこれを確保しようと意図したが資金が足りなかったところから、同会議所会頭の伊沢平勝(同人は七十七銀行の元頭取であり原告の筆頭株主でもある。)が原告に当面の取得方を要請してきたので、原告としては将来仙台商工会議所に引取ってもらう予定で取得したものである。そのため、取得費用についても当初から全額七十七銀行からの借入によることとしていたのである。
ところが、その後オイルショック等不測の経済変動のため、仙台商工会議所が本件土地を取得する資金的見込が全くなくなったので、仙台商工会議所への売却は不可能となった。そこで原告は、昭和五六年四月二日地元のために有効活用を期待できる双葉総合開発に本件土地を売却した。現実に、本件土地上に建設されたビルは、事実上仙台市の分庁舎として機能している。
原告は右の経緯で本件土地を取得し売却したもので、その保有期間は八年三か月余りであり、右取引には投機的目的は全くない。
(三) 本件借入及び返済の事情
(1) 原告は昭和四七年一二月一八日本件土地を取得したが、同日取得代金、建物解体費及び取得費用合計四億三一六四万二四三〇円のうち、99.6%に該る四億三〇〇〇万円を七十七銀行から借入れ、直ちに売主三井銀行に対する支払にあてた。
(2) 昭和五六年四月二日本件土地を双葉総合開発に売却したが、同日その売却代金九億三八五一万二七五四円から本件借入金四億三〇〇〇万円全額を七十七銀行に返済した。
(3) 右のとおり土地取得代金相当額を土地取得日に借入れ、売却の日に売却代金の中から借入金全額を返済し、その間は借入金元帳記載のとおり個別管理により金利支払をしていたもので、本件借入金と本件土地取得との関連性は明々白々である。
(四) 原告の経理の状況
原告の常業は、損害保険の代理業及び不動産賃貸業であり、営業上いわゆる運転資金等の借入を全く必要としない業態である。
原告の借入金はその全部が固定資産たる不動産又は七十七銀行関連会社の株式取得(投機的な取得ではない。)のためのものであり、借入金毎にその使途が特定されている。原告が本件土地を取得した昭和四七年一二月からこれを売却した昭和五七年四月までの間の各事業年度の借入金管理の状況をみると、すべて資産取得のためで、運転資金、営業資金のための借入は皆無であり、借入金と取得資産との対応関係及びこれに対する支払利子の額が個別的に明らかである。
また、原告の本件借入にかかる経理の具体的内容を検討すれば、何ら恣意的な経理の操作はない。
(五) 本件借入の金利
原告の申告による本件借入にかかる支払利子の平均利率は年7.56%程度である。これは、当時の金利水準からみれば、むしろ低率であり、施行令三八条の四第六項に定める概算法の年六%と比較しても著しく高率というものではない。
(六) 右の各事情を考慮すれば、原告のなした直接配賦法による負債の利子の計算方法はまさに合理的な計算方法である。
六 原告の反論に対する認否
1 原告の反論1ないし4は否認もしくは争う。
2(一) 同5(一)のうち、原告が七十七銀行の関連会社であることは認める。
(二) 同5(二)のうち、原告が昭和四七年一二月一八日、三井銀行から本件土地を買受け、昭和五六年四月二日双葉総合開発に本件土地を売却したこと、保有期間が八年三か月余であったことは認める。
(三)(1) 同5(三)(1)及び(2)は認める。
(2) 同5(三)(3)は争う。
(四) 同5(四)は争う。
(五) 同5(六)は争う。
第三 証拠<省略>
理由
被告が本件更正処分等をしたことは当事者間に争いがないので、直ちに右処分等が適法なものか否かについて判断する。
一法人が土地を譲渡して利益をえた場合、従来はこれを他の所得から分離して課税対象とすることはしていなかったが、昭和四八年に租税特別措置法の六三条(交際費等の損金不算入を定めたもの)を削除中の六二条に改め、六三条として「土地の譲渡等がある場合の特別税率」に関する条項を新設する立法がなされ、これに伴い同法施行令に三八条の四が加えられてからは、法人の土地譲渡益に対する分離重課がなされることになった。すなわち、土地譲渡益(売却代金から原価を控除した残額)を生じた事業年度における法人税額の計算に当っては、土地譲渡益を法人本来の営業活動から生じる所得に含め、その他の損益と通算して課税の対象とする外に更にこれをそれ以外の所得から分離し、これから直接、間接の経費である(1)当該土地の販売費及び一般管理費と、(2)当該土地の負債利子の額とを控除した残額に対し重ねて二〇パーセントの率の課税をする制度が導入されたのである。
右(2)の負債利子額を計算するには、被告がその主張2で述べているとおりの理由から、施行令三八条の四第六項により、譲渡土地につき法人が実際に支払った利子の額を考慮することなく、同土地を保有していた期間中の帳簿価額の累計額に一〇〇分の六を乗ずる簡便な計算方法が原則とされているが、同条第八項により例外的計算方法として、特に法人が当該土地の譲渡にかかる負債の利子の額を「合理的に計算」して法人税確定申告書に記載することが許容されている(以下当事者の呼称に倣い、右の原則的計算方法を「概算法」、例外的方法を「実額配賦法」という)。原告は概算法によらずに本件申告をしたのであるが、その依拠した方法が合理的な計算に該当するのか否かが本件の争点である。
ところで、法令上は如何なる計算方法が合理的なそれであるかについての規定がないので、土地税制において法人に対する重課制度が新設された趣旨目的を考慮しつつ、他の条項を手がかりとしてこれを解釈しなければならないわけであるが、ここで留意すべきは、利子支分(発生)の根拠たる負債の性質・内容につき、同条第六項がこれを「資産の保有のために要した負債」と規定している点である。もっとも、この「保有のための負債」という概念も一義的に明確であるとはいい難いのであるが、「資産取得のために要した負債」と同義でないのは確かである。思うに、法人が土地を取得してからこれを譲渡するまでの間に、営業資金に不足を来たした場合、右土地を含む資産の全部又は一部を換金するか、他人資金を導入するかのいずれかの手段をとるのが通常であり、後者の場合で、しかも借財をしたとき、その結果として資産を手放さずに済んだのであるから、それが「保有のための借財」に該当するのは明らかである。但し、右借財は資産の保有を目的とするものではないので(実はそれを主目的とする場合も同じなのであるが、このことは後述する)、その全額がこれに該当するのではなく、営業活動全体の中で当該資産保有の占める割合(もっとも、このような対比を数値で表わすのは不可能であるから、結局全資産額の中で同資産の価額が占める割合に置き換えることになる)に対応する分だけとなるのは当然である。
「資産保有のために要した負債」の実体は右のようなものであるが、「資産取得のために要した負債」の概念と相容れないものかというに、取得は直ちに譲渡時までの保有を意味するから、取得のために要した負債は即、保有のためのものに変容するのである。
二このように、土地取得後、譲渡までの途中に営業資金として借入れた負債のうち、前記割合による一部が保有のための負債とされ、また、取得のための負債が保有のための負債に変容するので、問題は、後者の「取得のための負債」の全額をそのまま保有のための負債として取扱うのが「合理的な計算」といいうるのか否かに帰着する。
この点を解明するため法人の資産・経理について考えてみると、法人にあっては、自己資金と他人資金が共に事業経営に必要な資金として混然一体となって運用ないし支出され、その資金繰は法人全体の資金需要に対応して行なわれる。これを土地取得のために他人資金を借入れる場合について見ると、事業経営の他分野に自己資金を支出したことにより、当該土地の取得資金に不足が生じたためか、逆に右借入をすることにより他分野に支出する自己資金に余裕をもたせるためかのいずれかであるから、右借入の趣旨・目的が土地取得のためという特定されたものであっても、その資金的効果は法人の事業経営全体に平均的に及ぶ。また、法人が取得土地を利用して収益をあげると、該収益は事業経営資金の一部として法人の資金繰に余裕を与える。土地と一見無関係な営業資金の借入も、その反射的・副次的効果として土地処分の防止、すなわち土地の保有継続という結果をもたらすのは先に判示したとおりである。更に、借入金の返済についていうと、返済資金は返済計画に従って法人のその他の自己資金もしくは他人資金によって賄われることになるのであるから、借入金の返済も亦法人全体の資金内容に左右される。土地取得のためにした借入金の返済を当該土地の転売代金ですることにしている場合でも、そのことにより、右土地の保有期間中右借入金以外の借入金の返済や他の事業目的への資金投下が可能となる資金的余裕が生じ、或いは自己資金の留保が可能になるなど、法人の資金内容全体に影響を及ぼす。要するに、借入の趣旨・目的や借入金の返済方法如何に拘らず、借入金の効果は法人の全資産に平均的に対応することになるのである。
三以上考察したとおり、土地取得のための借入金といえども保有のためのものに変容して、他の事業目的のための借入金との性質上の区別が消滅し(少なくとも稀薄化し)、しかも、法人のすべての借入金は全資産に対し平均的に効果を及ぼすのであるから、法人の土地譲渡益に対する税の重課制度のもとで、これから控除すべき負債利子の額を計算するには、土地取得のためにした借入金も、土地保有期間内における他の借入金と同様、法人の全資産額中に占める同土地の価額の割合に応じて配賦すべきものである。かかる方法によらず、右借入金と当該土地との結び付きを是認して他の借入金と区別し、これから発生する利子を土地取得のためだけでの経費とする考え方は、たとえそのような帳簿記載とか経理操作とかがなされているとしても、法人資産の実態ないし借入金のもたらす実際の効果を認識しない独断であるというべきである。
右考察の一つの前提となっている考え方、すなわち取得費以外の借入金を保有のための負債として配賦する方法に対しては、土地以外に見るべき資産のない法人が他の事業目的のために多額の有利子借入をした場合には、保有のための負債額が過大になって却って不合理であるとの批判が考えられるが、実際には殆どありえない想定事例であり、仮にありうるとしても、そのような資産・経理状態の法人は早晩倒産して実際の支払利子が多額になることではないであろうから、右のような批判は妥当しないということができる。
四してみれば、前記実額配賦法のもとでの負債利子の計算に当り、土地取得の借入金に対する支払利子をいかに配賦するかについては、原告主張の個別対応による直接配賦(紐付配賦)法は合理性がなく、被告主張の総資産按分法(措置法関係通達(法人税編)六三―(四)―一七)が右の要件に適合しているといわなければならない。
右の帰結は一般の事業法人を念頭に置き、前記各法令及び条理・経験則に基づいて導き出したものであるが、仮に、巨大な資金力を有する法人の子会社が、右親会社の指示に従い親会社のために親会社からの借入金で土地を取得する場合を想定し、親会社自身がその名で自己資金で取得した場合と比較すると、後者の場合には利子相当額を控除経費として計上することなどできない筈であるのに、これと実質的に変らない右想定事例の場合には、親会社は子会社から利子の支払を受けるほかに、子会社を通じて利子を経費として計上することが可能となる。その上に紐付配賦を是認すれば、不合理性は一層顕著になる。
五念の為に、原告が本件土地を取得し譲渡した事情及びその周辺の事実関係を検討し、その上で前記帰結の当否を検証することとする。
<証拠>を総合すれば、以下の各事実を認めることができる。
1 原告は七十七銀行のいわゆる子会社であって、損害保険代理業、不動産の売買、賃貸等を主たる業務としているが、その業務の中には、銀行が将来支店を開設するための用地を自身で先行取得することが出来ないため、原告が七十七銀行に代って土地を先行取得し、当該土地を賃貸する等してこれを管理する業務も含まれている。
2 原告は本件土地を昭和四七年一二月一八日三井銀行から買受け、その代金、建物解体費及び取得費用合計四億三一六四万二四三〇円のうち99.6%に該る四億三〇〇〇万円を七十七銀行から借入れ、直ちに三井銀行に対する支払に充てた。原告が本件土地を買受けた理由は、本件土地が仙台商工会議所会館の隣接地で、当時改築予定のあった仙台商工会議所がこれを確保したかったが資金が足りず、同会議所会頭で七十七銀行の元頭取であり、原告の筆頭株主でもある伊沢平勝が原告に当面の取得方を要請してきたためであり、原告としては将来仙台商工会議所に引取ってもらう予定であった。このような経緯から、取得費用は当初から全額七十七銀行からの借入によることとしたのであり、かつ借入にかかる支払利子も平均利率7.56%と当時の金利水準からみれば低率であったが。本件借入金の返済期日は当初の約定では昭和五三年六月三〇日であったが延期された。原告は昭和五六年四月二日双葉総合開発に本件土地を九億三八五一万二七五四円で売渡し、同日、右売却代金から直ちに七十七銀行からの借入金四億三〇〇〇万円全額を返済した。
3 原告が本件土地を双葉総合開発に売却したのは、その後の経済変動により仙台商工会議所が本件土地を取得する資金的見込が全くなくなり、同会議所に譲渡することが不可能になったからである。
4 原告は本件土地取得から譲渡に至るまでの間、借入金元帳に個別管理することによって金利支払をする一方、本件土地を利用して駐車場を経営し、合計二億九六〇九万七八五一円の収入を得た。この収入は原告の営業内収入として事業資金の一部に充てられている。原告は、本件借入金のほか、有価証券の購入資金、土地、設備の取得資金及び貸ビル建設資金、運転資金等に充てるため、多額の借入をしており、その借入金の中には、弁済期前に返済されているものがある。
5 原告の事業資金の一部は、七十七銀行本店営業部の原告名義の普通預金口座を経由しているが、同口座の資金源は借入金、土地譲渡代金、賃料収入等であり、また預入れされた金銭は借入金の返済、土地の購入資金、給料、支払利息等として払出されている。
以上のとおり認められる。
右認定事実の如く、原告は本件借入金について借入、その支払利子等につき、帳簿に個別に記載し管理していたのであるが、単に帳簿の記載の巧拙によって、借入金と支払利子との間の個別対応を直ちに推認するのは早計である。すなわち、原告は本件借入金以外にも多くの借入をしているところ、本件借入金以外の借入金の或ものについては、本来の弁済期前に元本に対する一部内入がなされ優先的に返済がなされているのに、本件借入金は当初の弁済期を延期した上で、八年三ケ月もの長期間にわたって利息以外全く弁済がされなかったのである。これにより原告は、本件土地保有期間中、本件借入以外の借入金の返済を可能とする資金的余裕を得、或いは自己資金の留保が可能になったということができる。また、原告は本件土地で自動車駐車場を経営して得た二億九六〇九万円余もの収入を原告の事業資金の一部に充てながら、本件借入金の返済には一切振向けていないが、これで本件借入金の一部返済に充てればそれだけ当該借入金に対する負債の利子の額は減る筈であるのに、右のような処理をした結果、本件土地の保有期間中、これに係る借入金に対し引続き従前と同額の利子を発生させる一方、原告の事業資金の一部を駐車場収入から得ていたわけである。
右に判示したところからすると、本件借入金の資金効果が原告の事業全体に平均に寄与しているのは明らかであり、原告における資金の運用状況は、収入、支出いずれの面でも、他人資金と自己資金が混然一体となって運用されており、借入金と支払利子との間に実質的な個別対応の関係を見出すことは不可能である。したがって、本件の具体的事実に即しても、紐付配賦法に合理性を見出すことはできないというべきである。
六以上のとおりであるから、原告について、負債の利子の額を計算するに当たり、実額配賦法としての総資産按分法によるべきであり、同計算方法に従うと、原告の本件事業年度における保有期間の負債利子の額、土地譲渡利益金額及び土地譲渡利益金額に対する税額は、別表2裁決欄記載の金額に近い金額、すなわち、被告がその主張欄1の(二)で掲げている一億八〇五九万二〇〇〇円及び三六一一万八四〇〇円となり、右範囲内でされた被告の本件更正処分等に違法性はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小林啓二 裁判官吉野孝義 裁判官岩井隆義)
別表1
法人税の更正処分等の経緯一覧表
番号
昭和年月日
区分
所得金額(円)
納付すべき税額(円)
過少申告
加算税(円)
土地譲渡利益金額(円)
一
五七、 五、二八
確定申告
五〇〇、九三八、七三六
二二四、三九四、六〇〇
九七、〇三一、〇〇〇
二
五九、 八、二七
更正及び加算税の賦課決定
五〇〇、九三八、七三六
二三五、三四五、二〇〇
五四七、五〇〇
一五一、七八四、〇〇〇
三
五九、一〇、 六
審査請求
五〇〇、九三八、七三六
二二四、三九四、六〇〇
九七、〇三一、〇〇〇
四
六一、 三、三一
裁決
棄却
別表2
更正処分の内訳表
番号
項目
金額(円)
確定申告
更正
裁決
一
土地の譲渡等による収益の額
九三八、五一二、七五四
同上
同上
二
土地の譲渡に対応する原価の額
四二七、一八二、五一六
同上
同上
三
譲渡のために要した経費
(保有期間の負債の利子の額)
二七〇、四八〇、五九四
(支払利子の実額により計算)
二一五、七二七、一七〇
(法定の概算値によって計算)
一八七、一五七、三九八
(総資産按分によって計算)
四
譲渡のために要した経費
(販売費及び一般管理費の額)
一四三、八一八、一一三
(法定の概算値によって計算)
同上
同上
五
土地譲渡利益金額
(一-(二+三+四))
九七、〇三一、〇〇〇
一五一、七八四、〇〇〇
一八〇、三五四、〇〇〇
六
土地譲渡利益金額に対する税額
(二〇パーセント)
一九、四〇六、二〇〇
三〇、三五六、八〇〇
三六、〇七〇、八〇〇
別表3概算法
file_3.jpgaxnenn, ipmorn eer Et es cae ABO. )ovestet + (mama MOAB) «5 26
別表4
file_4.jpgRUAFD 7 BHA OKA, MAOMBAMOR GR RAMI MET BSH S DORRE ORS
別表5総資産按分法の計算方法
file_5.jpgBEV OO +B OO+EX(G+V) BEG OLEES atx AF NHSERE
A=当該事業年度の直前事業年度の終了の日における総資産の帳簿価額から,同日における土地等の帳簿価額を控除した金額
B=当該事業年度終了の日における総資産の帳簿価額から,同日における土地等の帳簿価額を控除した金額
C=当該事業年度中に譲渡した個々の土地等の譲渡原価に当該個々の土地等の当該事業年度における保有期間の月数を乗じ,これを当該事業年度の月数で除して得た金額
D=当該事業年度終了の日において有する個々の土地等の同日における帳簿価額に当該個々の土地等の当該事業年度における保有期間の月数を乗じ,これを当該事業年度の月数で除して得た金額